Title | 趣意書(4)-宇佐美側の供述調書、証拠をことごとく無視するという暴挙/火の粉を払え ルポライター米本和広blog | |||
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Date | 2012-05-29 | Hit | 4430 |
宇佐美氏の控訴趣意書(4)-認定すべき事実を認定しなかったことの事実誤認 これまでの趣意書は「原判決の認定事実の中の事実誤認」を指摘したものだったが、今回と次回は「原審証拠上認定すべき事実を認定しなかったことの事実誤認」を述べたものである。趣意書の核となる部分である。 宇佐美氏への訴因は、恋愛感情を充足させる目的で、待ち伏せ行為を繰り返した-というもので、東京地裁は起訴通り、そのことを認めた(検察への満額回答)。それに対する全面的な反論である。東京高裁はどう判断するのか?
*1 控訴趣意書は原文のママだが、適宜、改行、行空けを行い、一部の文字をゴチックにした。
*2 目次にある頁数を趣意書に生かした。
*3 告訴人の固有名詞だけはイニシャル(K)とした。
*4 四角で囲ったところは、管理人の注釈。一部、敬称を略した。
*5 下線は、管理人が注目した記述。
第4 原審証拠上認定すべき事実を認定しなかった事実誤認 1 「被告人にはKの本心が分からなかった」と認定すべきこと 原判決は,15頁の2項において 「上記認定事実によれば,判示各行為の当時,被告人は,Kには被告人に対する恋愛感情がなく,被告人と結婚する意思も全くなくなったことを知りながらも,終始,Kに対して強い恋愛感情を有し,Kと会い,どうにかしてKとの関係を修復しようと考えていた」 とし, 「判示各行為は,・・・Kとの関係を修復したいという被告人のKに対する恋愛感情を充足する目的で行われたもの」 と認定した。
しかし,前記第3.1のとおりの事実誤認がある以上,上記前者の「・・・知りながらも・・・関係を修復しようと考えていた」という認定をすることができず,よって,上記後者の「・・・恋愛感情を充足する目的で行われたもの」という認定もできないというべきである。 さらに,以下に述べるとおり,原審に顕れた証拠により認められる事実からすれば,被告人には,Kの脱会意思や婚約破棄の意思を信じることができず,本心が分からなかったと言える合理的な理由があったといえるから,むしろ,恋愛感情充足目的はなかったと認定すべきであった。 (1) 被告人の認識(総論) 原審において被告人及び弁護人が主張したとおり,被告人は,Kとの結婚を間近に控え,極めて良好な交際をしていたにもかかわらず,平成20年1月1日にKが帰省して行方不明になって以降,Kとのメールや電話等による直接的連絡が一切できなくなった。このとき,被告人は, (ア) 統一教会信者に対して,その信仰を反対する両親らが,「職業的強制改宗屋」<15頁> の協力を得て,「拉致監禁」し,強引に棄教を迫る例が過去に多数あり, (イ) 信者によっては,自分の内面的信仰を守りつつ,拉致監禁から解放されるために,外形上脱会を装う偽装脱会という方法をとる例も少なくなく,棄教を迫る側も偽装脱会ではないか確認するため,まずは統一教会宛の脱会届に始まり,統一教会に対する金銭請求などの「踏み絵」を踏ませる例が多い,という認識を持っていた。 その上で,Kの失踪状況において (ウ) Kの両親がもともとKの信仰に反対していた事実があり,Kの両親らによる強制改宗を目的とした拉致監禁が強く疑われる状況,及び, (エ) Kの統一教会宛脱会届があって以降は,偽装脱会をしているのではないかと思われる状況,すなわち,Kの脱会と婚約破棄が本心であると信じることができない合理的理由があったためKの本心がわからなかった。そこで,Kと直接会って,その本心,すなわち,脱会意思及び結婚意思の有無を確認する必要があり,その前提として,まずはKの居場所を捜し,Kの状況を探る目的から,判示各行為を行ったのである。 (オ) なお,被告人は,あくまで家族的な愛情からKのことを心配するとともに,本心を確認するために捜していたのであり,Kの本心を無視してまでKとの関係を修復しようとは,全く考えていなかった。 以上の被告人の認識は,被告人自身が,捜査段階の調書(乙2・原審記録1283丁,乙4・原審記録1314~1315丁,乙5・原審記録1325丁以下,乙8・原審記録1362丁以下,乙13・1383丁,乙14・原審記録1387丁以下),公判供述及び最終意見陳述(原審記録88~89丁)において一貫して述べてきたことである。 しかも,かかる被告人の供述は,原審における各証拠(中務供述,山川供述,澤田供述)とも整合するため,信用性が高いというべきである。 以下詳述する。 (2) 原判決の認定する経緯等の事実①②の関連 原判決は,「(1)犯行に至る経緯等」における認定事実①②において,被告人の判示各行為の目的に関連する主観的認識に関し,以下のような事実を証拠に基づいて認定できたはずであるにもかかわらず認定していない。 (ア) 原判決は,上記①において,被告人とKが結婚を前提とする交際を続けていたことは認定するが,その交際状況は,失踪する直前まで非常に親密で良好な関係にあり,相互に,日常的に,電話やメールを頻繁に交わしていたこと(弁1ないし弁2・原審記録1080~1247丁)。 (イ) 上記(ア)の事実からすると,Kが,実家に帰省した以降,被告人に対し,電話やメール等の連絡を一切しないのは極めて不自然であること。 (ウ) もともと被告人は,統一教会信者に対して,家族が強制改宗屋の指導協力を得て,<16頁> 拉致監禁という手段で強制棄教がなされる例があると認識していたこと。 (エ) 被告人は,交際中に,K本人から,Kの両親はKの統一教会の信仰に反対していて,過去に,Kに対し拉致監禁を試みたことがあると聞いていたこと。 以上の事実認定は,まさに,前記(1)の(ウ)の「Kの両親らによる強制改宗を目的とした拉致監禁が強く疑われる状況」であると被告人が認識したことを直接的に裏付ける事実であり,Kが被告人に連絡をしないのは,被告人を嫌いになったとか,結婚の意思がなくなったからなどという唐突で単純なものではないことを示す事実である。 被告人は,Kが行方不明になった当初に,上記のように,拉致監禁が強く疑われる状況と認識したために,その後のKの脱会意思や婚約破棄の通知の内容を信じることができなかったのである。ところが,原判決は,この出発点の被告人の認識について,上記の事実認定をしなかったため,被告人がKの本心を信じることができなかったことについて合理的理由があるという認定ができず,重大な事実誤認につながったというべきである。 (3) 原判決の認定する経緯等の事実④の関連 原判決は,被告人が,中務から,Kの平成20年12月の統一教会脱退通知及び婚約破棄に関する内容証明郵便が送られて来たこと,及びKと電話で話したことを聞いた事実を認定し,当該事実をもって,被告人が,Kには被告人に対する恋愛感情及び結婚意思がないことを知りながら,Kとの関係を修復しようと考えていた根拠としている。 しかし,原判決は,被告人には,上記内容証明郵便送付の事実を聞いても,本当に被告人に対する結婚意思等が無いとは知り得ない合理的な理由となる以下の事実が原審証拠から認定できるにもかかわらず,認定しなかった。即ち, (ア) もともと被告人は,行方不明になり拉致監禁されたと疑われる統一教会信者が,しばらくして,同教会側に定型的な文章で内容証明郵便による脱会通知を送付してきた場合,偽装脱会である場合があることを知っていた。 (イ) 被告人は,Kについて,被告人自身よりもずっと強い信仰心をもっていると理解しており,かつ,Kとの最後の別れ際に,拉致監禁を心配する被告人を安心させたKの表情と言葉が忘れられず,Kがそう簡単に本心から棄教することはないと認識していた。 上記(ア)(イ)の認識があったので,被告人は,Kの内容証明郵便の内容を中務から聞いても,それがKの本心であるとは,到底信じられなかったのである。同内容証明郵便のことを被告人に伝えた中務自身も被告人と同様の認識であった。(中務調書p4,第6回公判被告人調書p20以下)<17頁> さらに,被告人が中務からKと電話で話したことを聞いた件に関し,中務は,原審公判廷において,電話でのKの雰囲気からKが偽装脱会をしている可能性が高いと伝えた旨供述しており(中務調書p8),同様に,被告人も原審公判廷において中務から「偽装脱会に見えた。」と伝えられた旨供述しているのであり(第6回公判被告人調書p23),中務とKが電話した内容を聞いた被告人は,Kが偽装脱会をしている可能性が高いと強く認識するようになったのである。
このように,Kの前記内容証明郵便及び中務との電話内容に関する被告人の認識については,前記被告人供述だけでなく,これを裏付ける中務供述も存在する。 にもかかわらず,原判決は,前記被告人の認識に関する被告人供述及び中務証言を完全に無視しており,明らかに事実誤認である。 (4) 原判決の認定する経緯等の事実⑥の関連(宮村供述の信用性) 原判決は,宮村がKの被告人に対する本心を確認して,それを被告人に伝えた事実を認定し,その事実を,被告人が,Kには被告人に対する恋愛感情及び結婚意思がないことを知っていた根拠としている。 しかし,原判決は,被告人にとって,宮村という人物は全く信用できない以下のような事情があることについて,原審証拠上認定できるにもかかわらず,認定しなかった。 (ア) 宮村本人の公判供述からも明らかであるとおり,宮村は,統一教会信者に対する脱会支援活動を,27,28年間行っている人物である(宮村調書p16)。 (イ) 被告人は,宮村について,同人は拉致監禁という違法な手段を用いて統一教会信者を長期間にわたり監禁した上,執拗に脱会説得を行う人物であり,このような説得を受けた統一教会信者は,監禁から逃れるため,本心では脱会していないのに脱会届を作成するなどのいわゆる偽装脱会をするケースが多々あることと認識していた(第6回公判被告人調書p25~27) (ウ) 被告人は,平成21年11月に宮村と会う前,宮村がKの脱会説得に関与していることを知った(第6回公判被告人調書p25)。 このように,宮村が前記のような脱会説得をする立場の人間であり,かつ,Kが偽装脱会をしている可能性もあると認識していた被告人としては,宮村から,「彼女が会いたくないと言っている。」と伝えられても,それがKの本心であると受け止めることができなかったのである。 したがって,宮村がKの被告人に対する本心を確認して,それを被告人に伝えた事実をもって,被告人が,Kの被告人に対する恋愛感情及び結婚意思がないことを知っていたと認定した原判決は,明らかに事実誤認である。<18頁> (5) 原判決の認定する経緯等の事実⑦⑬の関連 原判決は,被告人が,Kの書いた被告人宛ての手紙(甲66・原審記録1053丁)及び指輪や携帯電話等の荷物が被告人の実家に送られる可能性があることを事前に認識し,被告人の母親に当該荷物の受け取りを拒否するよう言った事実を認定し(認定事実⑦),当該事実をもって,被告人が,Kには被告人に対する恋愛感情及び結婚意思がないことを知っていた根拠としている。 しかしながら,被告人は,原判決の認定事実⑥に記載の宮村とのもみ合いになった後の宮村からの電話があった際に,Kから被告人に返す荷物を預かっているので返したいと言われ,K本人から受け取りたいと言ったにもかかわらず,宮村が返すと言い続けたため,被告人は受取を拒否したといういきさつがあった。 このいきさつについて宮村供述と被告人供述には食い違いがあるが,被告人供述の信用性が高いことは,弁論要旨9頁において述べた通りである。 被告人は,本当に脱会したならK本人が返してくればいいものを宮村が仲介すること自体に反発と疑問を感じ,宮村を介した荷物の受取を拒否したのである(第6回公判被告人調書p30)。 原審は,認定事実⑥において,被告人が宮村に対し荷物の受取を拒否した前記のようないきさつを一切認定することなく,認定事実⑦では,ただ,被告人が母親に「Kからの」荷物の受取拒否を依頼したことだけを認定することで,被告人がKの結婚意思等無くなっていると知っていたという誤った事実の認定根拠として利用しているように見える。 そもそも,Kは,被告人がKを心配して捜し続けていることを知っていながら,交際当時に承知していた被告人の住所宛てに,全く1度も荷物や手紙を送ってみることもなく,いきなり,宮村を介して被告人の実家に送ったこと自体があまりに不自然であり,本当にKの意思でそのようなことをしたとすれば非常識かつ不誠実極まりないというべきである。
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